「鍛える国語教室」研究会blog

野口芳宏主宰と学び合う研究会です。

日本言語技術教育学会第33回研究大会群馬大会

 以下,大会研究論文集『言語技術教育33』の序文である。「はじめに」を用いるのはやめた。「『言語技術教育33』の成果と課題」とした。

 研究者と実践者がともに学習者の言語技術教育を高めていこう。

 お待ちしている。

 

 

 『言語技術教育33』の成果と課題       会長 柳谷直明

 『言語技術教育33』の成果と課題を整理する。『言語技術教育33』は第三三回研究大会での模擬授業指導案、研究論文を収載した。加えて、宇佐美寬(論文の敬称は省略する。)の追悼文も収載した。宇佐美は本学会の発起人の一人であり、本学会での功績が大きいと会長が判断したからである。過去には、大内善一が元会長の市毛勝雄の追悼文を収載した。会員の追悼文を収載するのであれば、今後、会員が逝去する度に追悼文を収載しなくては不平等であると宇佐美は批判するだろう。今回は会長判断で追悼文執筆希望者を募った。その結果、会長と前会長と常任理事の三名が執筆した。今後、追悼文の収載は理事会で決めればよい。現段階で追悼文収載の判断基準はない。このような経緯で宇佐美の追悼文を『言語技術教育33』は収載した。宇佐美への追悼文は宇佐美の個体史研究の価値をも有する。

 日本言語技術教育学会の研究大会は指導者の言語技術と学習者に身に付けさせる言語技術を模擬授業で報告するという実践を想定した、言語技術が見える報告方法は日本言語技術教育学会の研究成果の一つである。ところが、模擬授業前に模擬授業を検討できない。したがって、これまでの国語科授業で欠けていた言語技術、必須と想定する言語技術を報告し合う。模擬授業者、執筆者が報告した言語技術の有効性を議論により検討する方法も研究成果である。

 第三三回研究大会の構成は学習指導要領国語科の領域と同様である。京野真樹は「話すこと・聞くこと」領域にて、模擬授業で「対話による絵画の鑑賞」に有効な言語技術を報告するだろう。絵画の「鑑賞」は図画工作の時間でも、活用できる言語活動である。言語技術を身に付けた学習者は各教科等で言語技術を駆使し、言語活動を充実させて、深い学びを成立させる。したがって、学校教育全体での言語活動の充実が課題である。

 山本裕貴は模擬授業でChatGPTの作文指導を報告するだろう。テキスト生成AIを用いた指導、手書き指導が課題である。柳谷(二〇二二:八四)は述べる。「GIGAスクール構想が推進されている現在、筆者は原稿用紙を用いず、PCでレポートを書かせている。今後、PCでの作文指導は増えるだろう。」柳谷は三年前から、再任用で担当している中学生に原稿用紙を使った作文指導をあまりしていない。メモや下書きはタイピングで、清書だけを手書きさせている。例えば、論文は手書きしているのだろうか。宇佐美の論文は手書きであった。野口芳宏も手書きである。柳谷は両者の手書き論文をタイピングした。両者の手書き論文は修正箇所が少なかった。池田(二〇一一:一一)は述べる。「視写がよい。読み書きの経験を積ませるために、継続的で大量の視写を課す。」「私の視写の授業では、手書きのみをさせる。「日本語表現」で課す作文も手書きである。たまに作文をコンピューターで「作成」してくる学生がいるが、それは受理しない。必ず手書き原稿を提出させる。」(同、一六八)確かに、視写、手書きは様々な価値を持つ。しかし、柳谷は四〇年間、タイピングで文章を書いている。毎年二〇〇枚前後を発行していた学級通信は長く手書きであった。それも、一九九七年以降はタイピングにした。したがって、柳谷は二五年くらい、手書きで長い文章を書いていない。池田(二〇一一)も述べているが、字形が崩れている。小学一年生から一人一台端末が貸与されている現在、更に崩れている。柳谷はこの三年間、中学生の手書き文字を見ている。生徒は「や」「か」、「へ」「て」「し」などで判別できない文字を書く。今年度は中学三学年全員の国語を担当している。定期テストは各教科、手書きで解答させている。急いで書くからか、平仮名の字形が崩れて読みにくい。タイピングだけの記述だと、手書き文字がますます崩れる。そこで、ノート指導と点検、原稿用紙での清書指導と点検、定期テストでの記述式問題(各学年一〇問程度)の解答用紙の点検を行い、字形指導をしている。テキスト生成AIを用いた指導に関連する課題は多い。

 瀧沢葉子は説明文を読解させる授業に有効な言語技術を報告するだろう。例えば、情報をどう理解させるか、どう活用させるか、どう操作させるか、どう語彙を増やすか、どう考えを形成させ、批評させるか。説明的文章の読解指導は指導目標により多様な言語技術が想定できる。したがって、説明的文章の指導目標ごとの言語技術が課題である。

 岩下修は詩歌の鑑賞・読解指導に有効な言語技術を報告するだろう。『野口流小出し方式による詩の授業』と言語技術はどう関係するのか。国語科授業で学習者が身に付けるのは、言語技術に加えて、言語技術を含む語彙、学習意欲である。学習意欲の喚起のため、学習者を国語好きにするための指導者の言語技術も課題である。

【参考文献】

池田久美子(二〇一一)『視写の教育――〈からだ〉に読み書きさせる』東信堂

柳谷直明(二〇二二)「各教科等の言語活動を充実させるための言語技術抽出法研究」言語技術教育学会編『言語技術教育31』溪水社

 

www.kokuchpro.com